生成AIは、論文の構成整理、英文の推敲、要約、査読回答の下書きなどを効率化できます。効果を引き出すポイントは、AIに文章を丸投げするのではなく、研究者が事実・論理・判断を握ったまま、編集作業を分担することです。

この記事では、材料開発とデータ解析の実務で文章作成に取り組んできた経験をもとに、研究者・技術者が使いやすいプロンプトと確認手順をまとめます。必要な箇所をコピーし、角括弧の部分を自分の研究に合わせて置き換えてください。

生成AIが役立つ論文執筆の作業

作業生成AIに任せやすい部分研究者が確認する部分
構成設計見出し案、論点の並び替え研究の新規性、主張の順序
英文校正文法、語法、簡潔さ、表現候補意味、専門用語、数値、因果関係
Abstract語数調整、文章の接続主要結果、定量値、結論の範囲
文献整理提示した本文からの項目抽出原著論文、書誌情報、引用の妥当性
査読対応回答の構成、丁寧な英語表現追加解析、反論の根拠、修正箇所

特に相性がよいのは、「内容は決まっているが、表現や構成を整えたい」場面です。入力、出力、確認項目を分けると、再現性のある使い方になります。

論文執筆で使う前に決める3つのルール

1. 入力できる情報の範囲を確認する

所属組織の規程と利用するAIサービスの設定を確認し、許可された環境で利用します。未公開データ、共同研究先の情報、個人情報、特許出願前の内容などは、取り扱いルールに沿って入力範囲を決めましょう。機密情報を使わず、数値や固有名詞を仮置きして文章構造だけ整える方法も有効です。

2. 引用と数値は必ず原典に戻る

AIが提示した論文名、著者名、DOI、数値をそのまま引用するのではなく、出版社サイトや文献データベースで原典を確認します。文献探索では候補抽出にAIを使い、引用の採否は原著論文を読んで決める流れが確実です。

3. 投稿先の生成AIポリシーを確認する

開示方法や利用できる範囲は、出版社・学会・ジャーナルによって異なります。投稿規程の「AI」「author guidelines」「publication ethics」などの項目を確認し、必要な場合は使用目的と範囲を明記します。

精度を上げるプロンプトの基本形

使いやすいプロンプトは、次の5要素で組み立てられます。

  1. 目的:何を完成させたいか
  2. 前提:研究分野、読者、投稿先
  3. 入力:AIが扱う文章や情報
  4. 制約:変えてよい範囲、語数、文体
  5. 出力形式:表、箇条書き、修正版と変更理由など
【目的】
[例:Resultsの英文を明確で簡潔にする]

【前提】
分野:[材料科学]
想定読者:[当該分野の研究者]
投稿先の文体:[分かる範囲で記入]

【入力】
[対象の文章]

【制約】
・数値、単位、試料名、引用番号は変更しない
・原文にない解釈や因果関係を追加しない
・専門用語は指定した表記に統一する

【出力】
1. 修正版
2. 主な変更点
3. 内容確認が必要な箇所

場面別:そのまま使えるプロンプト例

英文校正:意味を保ったまま読みやすくする

以下の英文を学術論文に適した明確で簡潔な英語に整えてください。

条件:
・研究上の主張、数値、単位、試料名、引用番号は維持する
・原文にない結果や解釈を追加しない
・過度に難しい語へ置き換えない
・修正版の後に、主な変更点と理由を表で示す
・意味が複数に取れる箇所は、推測で決めず質問として示す

対象英文:
[ここに英文を貼る]

修正理由も出力させると、単なる置換ではなく、原文との比較がしやすくなります。専門用語の英語をまとめて確認したい場合は、統計解析・AI・マテリアルズインフォマティクスの英語用語集も活用できます。

パラグラフの論理構成を確認する

次のパラグラフを、以下の観点で確認してください。
1. 最初の文で段落の主題が示されているか
2. 各文が前の文と論理的につながっているか
3. 結果と解釈が区別されているか
4. 主張を支える情報が不足していないか

まず改善点を箇条書きで示し、その後に修正版を提示してください。
数値・専門用語・引用番号は変更しないでください。

対象文章:
[ここに文章を貼る]

Abstractの下書きを作る

以下の確定情報だけを用いて、[投稿先]向けのAbstract案を作成してください。

語数:[200〜250語]
構成:Background / Objective / Methods / Results / Conclusion
条件:
・Resultsには提示した定量値を含める
・原文にない数値、比較、優位性を追加しない
・略語は初出で定義する
・最後に使用語数を示す

研究背景:[入力]
目的:[入力]
方法:[入力]
主要結果:[入力]
結論:[入力]

本文全体を一度に渡すより、Abstractに必要な確定情報を項目別に入力する方が、重要な結果をコントロールしやすくなります。

タイトル案を比較する

以下の研究内容から英語タイトル案を10個作成してください。

研究対象:[入力]
手法:[入力]
主要な発見:[入力]
重要キーワード:[入力]

条件:
・結論を誇張しない
・原文にない「novel」「first」「breakthrough」は使わない
・15語以内を目安にする
・各案について「簡潔さ」「検索されやすさ」「結果の具体性」を5段階で評価する

図表の説明を整える

以下の図から読み取れる確定情報を使い、Results用の英文を作成してください。

条件:
・観察事実と考察を分ける
・増減、最大・最小、比較対象を明確にする
・数値と単位を維持する
・統計的有意差は、提示した検定結果がある場合だけ記述する

図の情報:
[軸、条件、数値、誤差表示、統計結果を入力]

グラフの増減や比較を英語で表す語彙は、英語でグラフを説明する表現集にまとめています。

文献を比較表に整理する

以下に示す論文本文または私が作成したメモだけを情報源として、比較表を作成してください。

列:
・著者、年
・研究目的
・材料/データ
・実験または解析手法
・主要結果
・研究の限界
・自分の研究との関係

条件:
・情報がない欄は「記載なし」とする
・書誌情報を推測して補完しない
・各項目の根拠となる文章を短く併記する

入力:
[論文本文またはメモ]

査読コメントへの回答案を作る

査読コメントと実施した対応に基づき、Response to Reviewerの英語案を作成してください。

Reviewer comment:
[コメント]

Our response and evidence:
[回答方針、追加実験・解析、根拠]

Changes in the manuscript:
[ページ、行、修正文]

条件:
・冒頭で指摘への謝意を簡潔に示す
・回答、根拠、原稿の変更点を分ける
・実施していない作業を追加しない
・反論する場合も、論点を具体的かつ丁寧に示す

生成AIを組み込んだ実践ワークフロー

  1. 自分で論点と事実を固定する:目的、方法、主要結果、伝えたい結論を箇条書きにします。
  2. 小さな単位で依頼する:まず1段落、1図、1つの査読コメントから試します。
  3. 原文と修正版を比較する:数値、単位、否定表現、比較対象、因果関係を確認します。
  4. 原典で検証する:引用、統計値、書誌情報、専門的な主張を確認します。
  5. 自分の言葉で最終化する:論文全体の用語、時制、主張の強さを統一します。
  6. 利用記録を残す:投稿先で開示が必要な場合に備え、ツール名、用途、確認方法を記録します。

出力を確認するチェックリスト

  • 数値・単位・試料名・引用番号が変わっていない
  • 相関が因果関係として書き換えられていない
  • 「may」「suggest」など主張の強さが適切である
  • 原文にない新規性や優位性が追加されていない
  • MethodsとResultsの内容が対応している
  • 引用文献が実在し、記述内容を直接支えている
  • 投稿先の語数、構成、生成AI利用規程を満たしている

よくある質問

日本語から英語へ一度に翻訳してもよい?

可能です。ただし、長い章全体よりも、論点が明確な段落単位で進める方が比較しやすくなります。最初に用語集を渡し、同じ材料名・手法名を同じ英語で統一するのも効果的です。

生成AIに参考文献を探してもらってよい?

検索語や候補テーマの提案には活用できます。引用する文献は、文献データベースや出版社サイトで書誌情報と本文を確認し、研究内容を直接読んで選びます。

どの生成AIを選べばよい?

モデル名だけで決めるより、所属先で利用が認められているか、データの扱い、長文入力、ファイル処理、変更履歴の比較など、必要な機能で選ぶのが実用的です。同じ短い文章で試し、専門用語の保持と修正理由の分かりやすさを比較すると判断しやすくなります。

まとめ

生成AIは、論文の中身を代わりに決める道具ではなく、研究者の考えを整理し、読み手に伝わる形へ整える編集支援として力を発揮します。目的・制約・出力形式を明示し、原文との比較と原典確認を行うことが、効率と精度を両立する基本です。

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モス
材料開発・データ解析の実務経験と、ベンチプレス180kg到達までの実践をもとに、筋トレ・データサイエンス・英語の情報を発信しています。